研究紹介

燃料電池

燃料電池は、水素と酸素から化学反応によりCO2フリーな電力を直接得ることができるデバイスとして知られています。当研究室では、燃料電池の特徴を生かした新たなケミカルリアクターとしての応用や、新規燃料電池の研究開発に取り組んでいます。

 

新たなケミカルリアクターとしての応用

「吸熱反応である有機ハイドライドからの脱水素」と「発熱反応である発電」の2つのプロセスを燃料電池内で同時に行うことに挑戦しています。そのために固体酸化物型燃料電池の運転条件(セルの温度等)を詳細に検討することにより、有機ハイドライドの一つであるメチルシクロヘキサンから、発電しながらトルエンを回収することに成功しました。

この成果により、従来必要であった脱水素設備を使用せずに、脱水素反応より少ないエネルギーで発電できる可能性が示されました(Fig.1)。また、回収したトルエンの生成割合は94%でした。加えて、条件を変更することにより、燃料電池を用いて芳香族の骨格に酸素基を導入できることも明らかにしています。

Fig. 1 燃料電池を利用した新たな脱水素、発電反応 (早大2023/7/19プレスリリース)

プロトン伝導型セラミック燃料電池の開発

運転温度の高い、固体酸化物形燃料電池は、反応活性が高い為、高い発電効率を得ることができます。しかしながら、燃料極で水が生成するため、燃料が希釈されネルンストロスが生じてしまいます。これを防ぐ為に、プロトン伝導タイプのセラミック燃料電池が注目されています。当研究室でもBa系電解質を中心に中間層の効果を検討し、ケミカルリアクターとしての適用を目指しています。

Fig. 2 Cross sectional chemical composition of proton-conducting SOFC by EDS.1)

電解還元技術

再生可能エネルギーで生じる余剰電力により、電解還元を行なえば、CO2フリーな化学品を得らえる可能性があります。そこで、CO2からの化学品合成とアンモニアの電解合成に取り組んでいます。

 

CO2の電解還元

CO2を電気化学的に還元することにより、メタンやメタノールと言った有用な化学品を直接合成する(カーボンリサイクル)研究に取り組んでいます。基礎研究として半導体技術のリソグラフを用いて、シリコン基板上にCO吸着能が異なる異種金属を組み合わせた新規複合電極(Fig.1)を作製し、多電子還元を連続的に起こすことを目指しています。異種金属の間隔を調整することにより、2電子還元生成物であるCOの生成量を減少させ8電子還元生成物であるメタンの生成量を増やすことに成功しました。今後効率の向上に取り組む計画です。

O2電解還元の課題として電解液に対するCO2の溶解度の低さと、副反応である水素発生反応(Hydrogen Evolution Reaction; HER)が挙げられます。その解決策としてガス拡散電極(Gas Diffusion Electrode; GDE)を用い、CO2をガス拡散層側から気体として供給し、触媒・電解液・CO2ガスの三層界面で反応させることで反応速度の向上とHERの抑制が見込めます。当研究室では触媒をGDEに電析(Fig.2)させイオン輸送を促進するアイオノマーの塗布や、固体高分子型燃料電池で用いられているMicro-Porous Layer の塗工による性能向上を検討しています。

Fig.1 ドット状に形成した複合電極 1)


Fig. 2 GDE表面のSEM観察結果 2)

アンモニアの電解合成

炭窒化ホウ素触媒を合成し、窒素ガス供給下の常温常圧でのアンモニアの電解合成を検討しています。そのファラデー効率や収率はまだ低いものの、電解液のpHやカリウムイオンの影響によりその特性が異なことを見出しています。

Fig.3 Reaction model of BNC catalyst in alkaline. electrolyte. 3)

水素利用

カーボンニュートラル社会を実現する為には、水素の安全利用が不可欠です。その安全性確保の為に水素インフラで使用される材料中の水素挙動と力学特性の関係について研究を行っています。低ひずみ速度引張試験を用いた研究により、水素脆化挙動は、鋼材中の水素濃度分布により支配されていることを明らかにしました。弾性変形中は格子間の水素量が増え、HEDE(hydrogen-enhanced decohesion)が支配的となり、塑性変形領域になると、転位の移動が活発になり、加えて表面欠陥からの水素侵入も多くなり水素の欠陥への集積が進行し、HELP(hydrogen-enhanced local plasticity)が支配的になることを見出しました(Fig.1)。

また、外部高圧水素環境下での試験と水素チャージ材の試験では、水素脆化挙動が異なることを破面形態の違いから明らかにしました。水素環境で材料を使用する際は、その応力(歪み)と環境が安全性を大きく左右すると考えられます。

Fig. 1 Hydrogen embrittlement morphology in elastic deformation and plastic deformation region.1)